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「ATHRA」2001年8月号

[水を科学する] サッカー日本代表の知られざる「水戦略」(1)

あらゆるスポーツと、すべてのアスリートと、切ってもも切れない関係にある「水」。
単に喉の渇きを癒すためではない。身体に必要な成分を補うだけのためでもない。
時には、勝利のために水を戦術的に利用することさえあるのだ。
96年アトランタ五輪のサッカー日本代表が、まさにその「水戦略」を行っていた。


UAE, インドネシア…アジア各国の「水事情」

サッカーの取材を続けていると、いっぱしの海外旅行通になる。サッカー取材で、いったい何カ国に足を運んだの勘定してみたら、記憶にあるだけで28カ国になった。中にはすでに10数回は訪れている国もある。それでも年の3分の2は、海外でサッカー取材を続けているような仕事仲間に比べれば、かなり少ないほうだ。 で、そんな私の場合、その国で最初にやることは飲料水、つまりミネラルウォーター探しである。特に東南アジアや中東などでは、ホテルに到着して一段落したらすぐに探しに出かける。

例えば、UAE(アラブ首長国連邦)の海沿いの街で飛んでもない物を見たことがある。店先に置かれた温・湿度計の針が気温41℃、湿度96パーセントを示していたのである。20分も歩いたら頭がクラクラしてきたのも当然だ。

また、東南アジアでは-----一部の高級ホテルを除けば、部屋の蛇口をひねると茶色い水が出てくることも珍しくはない。インドネシアのジャカルタで、ホテルの部屋のシャワーを浴びたとき、うっかりその水を飲んだ仲間がいる。すると数時間後には発熱と下痢で寝込んでしまった。仕事仲間の間でhあアジアや中東取材での飲み水や食い物による、この手の"あたり"話は毎度のことだ。

こういう場所に出かけると、水のありがたみがホントによくわかる。むろん、なれない異国での試合をするチームが我々以上に水に気を使うのは当然のことだ。

サッカーでは、アジアといえば元ソ連内の中央アジアから中東までをも含んでいる。一般認識のアジアよりも、はるかに広い。地区予選は原則としてホームアンドアウェイである。中立国での集中開催、という場合もあるが、受け入れ体制の問題で東南アジアや中東の国が多い。来年の日刊共済W杯のように主催国んいなれば予選は免除されるが、ほとんどの場合はアジア予選を戦い抜かなければならない。東は日本から西は中東まで、広大な地域をカバーするアジア予選は、環境との戦いでもあるのだ。

実は日本は、こうした高地(標高差)、水(主に暑さ対策として)などの、環境リスクマネージマントの先進国の一つなのである。この環境リスクマネージマントは、それぞれがリンクし、ケースバイケースでさまざまな対応があるのだが、あえて水にしぼって話を進める。

すでに気がついている人もいるだろうが、サッカーの試合中は、必ずタッチライン際やゴール脇にミネラルウォーターのペットボトルが置かれている。無論試合中の水分補給のためだが、そのペットボトルは、さまざまな意味と準備のもとに置かれている。

アジアを勝ち抜くためのリスクマネジメン

前述したように、アジア予選はしばしば亜熱帯、熱帯の国で行われる。つまり暑さ対策はアジアを勝ち抜くためには避けて通れない。そこで、重要な役割を担いフルに活用されるのがミネラルウォーターなのである。現日本代表コーチ(元ユース代表監督、アトランタ五輪代表コーチ)の山本昌邦は、環境リスクマネジメントのエキスパートの一人でもある。68年のメキシコ五輪以来、28年ぶりに五輪出場を果たしたアトランタ五輪のアジア予選は、綿密な水分補給が大いに役立った。アトランタ五輪代表には中田英寿、川口能活、服部年宏、伊藤輝悦などの多くの現A代表選手がいた。当時、山本に何度か取材をしたのだが非常に興味深い話だった。その時に聞いた話を、ここであらためて紹介したい。山本はサッカーにおける水分補給の理論を、陸上競技の専門誌に掲載されていた記事からヒントを得た、と語っていた。

「サッカーも1時間半近く動き回り、持久力が要求される競技です。むろん100メートル走のような瞬発力も必要だけどベースは持久力にある。となると、身体に発生する熱をどう放出させるか?それが暑い国でゲームするときのポイントになるんです。

発汗が少ないと身体に熱がこもり、熱けいれんを起こす可能性がある。要するにオーバーヒート状態になる。そうなると、判断力の低下も招くんですよね。そこで、事前に発汗を促すような身体を作ると同時に、身体を冷却するために冷たい水を飲んだり、身体にかけたりするわけです。

通常、日本代表(ジュニアユースからA代表まで)が暑い国で戦うとき、ピッチ脇に置かれたミネラルウォーターは、なるべく5℃から10℃の間に保たれるように工夫されている。選手たちはその水をゲーム中断中に飲むのだが、そのときに後頭部から首筋、あるいは大腿部にかける選手もいる。

「身体の水分が失われてくると、血液が粘性を持ち、血液の流れが悪くなりますね。そうなると-----簡単に言えば、体内で栄養を運ぶ能力が落ちる。それで水を飲むことで体内から血液などを冷却する。その一方で(太い血管がある後頭部の首筋に)水をかけることで、外部からも冷やし、冷却効果を上げるのです。太股付近にかけるのは、大腿四頭筋を冷やすためです。大腿四頭筋は身体の中で一番大きい筋肉で、サッカーでは最も頻繁に使う筋肉ですから」(山本)

酷暑のなかで、5℃から10℃の水をかければ、さぞかし気持ちが良かろう。鼻体に水をかけているとき、その水で腕や大腿部を洗うように手で拭っている選手も見受けられる。これは、皮膚に浮き出た汗が次第に粘着性を帯びて毛穴を塞いでいるため、洗い落としているのだ。山本氏によれば「夏に汗をかいた後にシャワーを溶びて洗い流すとベタベタしたものが落ちて(皮膚が冷却されて)すっきりするでしょう。それと同じことです。本当は水に浸したタオルで拭くといいんですけど、ゲーム中はそうもいかないんでね」。

しかしそれにしても、そんなに冷たい水を飲めば腹痛を起こしかねない。そこで、事前合宿などを通じて、選手たちにこの温度の水を飲ませ、慣れさせているのだ。

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