ファミリス 5・6月号

21世紀★静岡県人物ファイル
山本昌邦 サッカー五輪代表監督

必ずや、日本のサッカーが、世界の頂点に立つときがくる

- 五輪代表チーム監督就任を決断されたのは?

日本サッカー協会からこの話が来たとき、選択肢としてもう一つ、Jリーグのチームの指導にあたるという夢を持っていました。だから正直言ってたいへん迷いました。そのようななかで、今まで自分がやってきたことをふり返ってみると、若い選手たちを育て、アテネ五輪に望むことがいちばん自分の力を生かせると思い、決断しました。もちろんサッカー協会から高い評価をいただき、その熱意にうたれたことも大きな要因です。

- アテネ五輪に向けてのチームの構想は?

2004年のアテネ五輪にはメダルを狙いたいですね。しかし五輪でメダルをとっても、その選手たちが2006年、ドイツで行われるワールドカップのピッチに立たなければ、意味がまったくありません。先輩たちを追い抜けなかったということになりますから。そして私の五輪監督としての役目も果たせなかったということになると思います。この五輪代表チームは、日本サッカー界の躍進を担ったチームでもあるのです。

- 監督の仕事とは?

選手たち自身は個々に、五輪はもちろんワールドカップの頂点に立つという高い目標を設定しています。そこにたどりつくためのビジョンを提示し、選手個々に自信をもたせることが監督としての仕事と考えます。
監督としてのもう一つの大事なことは、経験値の高いスタッフを見抜いて自分のところに集め、監督とスタッフの信頼関係をつくることにあります。頂点にチームが近づくにつれて、周りからの外圧が大きくなり、チーム内が平常心を失いかねます。そういうとき、世界の場で活躍したことのあるスタッフ陣がチームに平常心を保たせてくれるのです。
そして監督とは、そこに正解はないとしても、場面場面で、もっとも最適なものを見つけ、決断を下し、結果を出さなければならないという厳しい立場にあると思います。

- つらい立場で、苦労しますね。

私は苦労とは感じません。今までもいろいろな立場でサッカーに携わってきましたが、苦労という言葉は口にしませんでしたし、自分自身にとっていい経験でした。今回も若い選手たちと新たな船出をするという心境です。だからこそ、このポストはやりがいにあふれています。

- 選手育成のポイントは?

まず、選手をよく観察することだと思います。それが監督と選手、そしてチームの信頼関係を生む第一歩となります。この信頼関係を築くために私は、自分が体感してきた世界基準を映像で見せ、直接話をすることなどで、選手に惜しみなくフィードバックしています。幸いなことに、私自身がこの10年間、いつも世界基準を見据えて仕事をしてこれましたから。
そしてもう一方で、選手が自発的に向上しようという意識を高めるようにもっていくことですね。

- そのあたりがリーダーとしての条件ということになりますか?

リーダーは、専門的な知識をもっていることや、リーダーシップをとることなどは言うまでもありません。そして力だけでチームを引っ張るのは真のリーダーとは言えないと思っています。
リーダーの本当の役目は、知識や戦略などをうまく説明することではなく、いかに選手を説得できるかなのです。いくら説明がうまくても、それを選手が自分のものとして吸収し、消化していなければ、選手は向上はしません。ここがリーダーのポイントだと思います。選手が向上しなければ、リーダーの仕事は評価されませんしね。

- 選手が仮に失敗をしてしまったとき、監督としての対応は?

選手も人間です。急に上手にはなりません。選手が成長していくうえで、失敗はつきものなのです。その失敗がより高いレベルを求め、次のステージにあがる挑戦であれば、選手にとってそれは大きな前進なんです。失敗をするかもしれないけれど、トライしたという気持ちが重要なことですね。そこで私は、タイミングを見逃さずに、すばらしい失敗なんだとほめます。トライしたその選手の勇気をほめたたえたいですね。そうすれば必ず選手はあきらめずにもう1回トライしていくはずです。そして一歩一歩前進していくと信じています。

- 監督が求める選手像は?

技術的なこと、個人の能力的なことなどはもちろんありますが、つねに現状の自分に満足しないで、次の高い目標に向かって挑戦し続ける気持ちを失わない選手です。すなわち今は、ワールドカップの頂点にいつも照準をあてている選手ということになりますね。
サッカーの頂点は、とても高いところにあります。FIFA国際サッカー連盟の加盟国は、国連の加盟国より多いということからも想像できると思います。その頂点を極める選手は、技術だけがずば抜けているだけではだめなんです。精神力、判断力、体力など、人間として強い選手でなければ世界にはまったく通用しないのです。
日本チームは、今回のワールドカップでベスト16に入りました。このことは今までに経験したことがない世界に足を踏み入れたのですから、とても大きな意味があります。しかし逆に、世界の頂点はまだ上だと痛感しました。私だけではなく経験者全員が・・・。

- 高い目標を持つことに意義があるということですか?

高い目標を掲げ、いつもそれに向かって進む姿勢は、選手そして監督としての私にも、とても重要なことになります。低い目標ではだめです。高い目標であるからこそ、そこにたどりつくまでには、はかりしれない努力も必要になるし、たいへんな思いもすることになります。目標があるからこそ、そこを乗り越えていけるのであって、目標が高ければ高いほど、達成したときの喜びは大きいはずです。
ワールドカップのチームは、選手とスタッフ合わせて約50人くらいです。この人たちが一つになって進むためには、高い目標の設定がチームを動かす原動力となるのです。

- 日本サッカーの今後の発展についてお願いします。

ワールドカップや五輪で頂点に立つには、そのチームの選手やスタッフだけがいくら努力しても成しえることは難しいのが事実です。サポーターの後押しはもちろん、このチームをどうしても勝たせたいという世論、国民全体の後押しが必要となってきます。たとえばワールドカップで優勝したブラジルチームが2 位では許されないことは皆さんわかると思います。それだけの選手がそろっていて、それができるチームレベルがある。そして国をあげての応援があり、それが選手にいい意味でのプレッシャーになる。日本サッカー界もその域に近づいていると断言できます。私たちサッカーに携わるものは、これからも前進あるのみです。ご声援をよろしくお願いいたします。

- ありがとうございました。

2002年4月 ファミリス 5・6月号
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